叢から叢へ
2016.12.06更新
伝言ゲームという遊びがあります。幼い頃,幼稚園で盛んにおこなわれたこの遊びは,私の心の中に大きな爪痕を残しました。人間は良い意味でも悪い意味でも信用できないということを知った私は,それから二十数年を経て弁護士になったわけです。
ある日,私は,伝言ゲームの最後列になってしまいました。それは,みんながバトンをつなぐようにリレーしてくれた言葉をみんなの前で発表するという非常に責任のある立場であることを意味します。私は思いました。「このような責任のある立場になって誇らしい」と。
第1回戦が始まりました。隣の列を見ると,早くも最後列まで伝言が完了したようです。私の列はまだでしょうか。気持ちが焦ります。来ました。ついに来ました。私の耳元である言葉がささやかれました。
「合言葉は『サササ』だって!」
私は,幼い頃からどこか物事を客観的に見る癖があったようです。そのとき,「いや,そんな言葉を伝言ゲームに使うわけないでしょ。」と思った自分自身がいたことを,今の私ははっきりと思いだすことができます。私は聞きました。「本当に『サササ』なの?」と。
「そうだよ。『サササ』だよ!」
あぁ,もうダメだ。私は,みんなの前で笑いものになるんだ。じゃあ,もういいか。さっさと言っちゃうか。
教諭「さぁ,答えを順番に言っていってもらおうか。」
私「『サササ』です。」
群衆「ざわざわ」
教諭「正解は,『サザエさん』でした!」
ですよね。そうなりますよね。でも『サ』は合ってましたね。よかったですね。
続いて第2回戦です。気を取りなおしましょう。今度こそやってやりましょう。私には字を書かせた同じ列の輩は決して許したくありませんが,今回がうまくいけば許しましょう。そう,人を許すことで自らが許されるのです。
「合言葉は『ウルトラマンのスペシウム光線』だって!」
あぁ,もうダメだ。絶対にダメだ。幼稚園児に出すお題なのに,間に「の」が入るなんて絶対におかしいもん。普通単語は一つだもん。絶対間違ってるよ。どうしよう,また恥をかくのか。しかも前回とは比べ物にならないくらい恥ずかしいじゃんか。
私「本当に『ウルトラマンのスペシウム光線』なの?」
前列の悪魔「絶対そうだって!早く前に行ってきなよ!」
執行を待つ気分というのは,こういうことなのでしょうか。私の番が刻一刻と迫ってきます。どうしよう。絶対違うもん。直感が違うって言ってるもん。
教諭「今回の言葉は何だったかな?」
私「『ウルトラマンのスペシウム光線』です。」
群衆「ざわ・・・ざわざわ・・・・・」
教諭「えっ・・・・・ざわざわ・・・・・」
教諭「・・・・・正解は,『ドラえもん』です。」
今日の教訓―裁判において人の証言なんてあてにならない
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