印章の素材選びは慎重に
こんにちは。
弁護士の角井です。
私事ですが,先日印鑑を新調しました。
それまで使っていた印鑑は,中学校の卒業記念でもらったもので,素材も何でできているのかわからないし,「角」の字の中心線は突き抜けていないし,まぁ要するにはあまり気にいってなかったわけです。
そうかと言っても,昔は今みたいに自由にネットを使えたわけではありませんし,地元のお店に印鑑を作りに行って,いろいろと注文をつけられたり,店主おすすめの素材や字体を推されたりするのも非常に嫌でしたから(それに私も若かったですから),なかなか新しい印鑑を作れずにいたわけです。
まぁ,私の話はいいのですが,この仕事をしていると,印鑑を使うことが非常に多いです。このブログの初回記事も「職印」に関するものでしたが,今日はせっかくですので,印鑑にまつわる様々な話をさささーっとご紹介することにいたします。
・印章/印影/印鑑
ちまたでは,「印鑑」という言葉が広く知られていますが,「判子」のことは「印章」と呼ぶのが正確です。そして,印象を押捺したものが「印影」にあたります。印鑑については,後に述べる「印鑑登録」という制度がありますから,官庁などに提出された印影だと理解すればよいでしょう。
・押印の意味
法律上,押印には非常に重要な意味があります。すなわち,「私文書は,本人又はその代理人の署名又は押印があるときは,真正に成立したものと推定する。」(民事訴訟法228条)とされています。本人の印影があれば,その文章の中身を理解したうえで押印したものと考えられるのであり,借用書などの法的文章に押印する必要があるのはこのためです。くれぐれもポンポン押印しないようにしなければなりませんね。
・実印/銀行印/認印
実印とは,市区町村にあらかじめ届け出て「印鑑登録証明書」の交付を受けた印章のことです。重要な取引の時くらいしか要求されないので,その押印には非常に重要な意味が発生します。依頼者の方との話の中で,「(当職との)契約書には実印を押さなければならないのでしょうか。」と聞かれることがあります。ご安心ください。その必要は全くありません。別に押してもかまいませんが,実印をみだりに使用することは控えるべきでしょう。実印を押しておいて,後から中身を確認していないといっても,その主張はまず通りません。
銀行印とは,金融機関に届け出た印章のことです。金融機関が銀行印を必要とする理由は,本人確認の厳格さにあります。すなわち,銀行が本人以外の者に対して預金を払い戻してしまった場合,その支払いは無効となるので,銀行は真の預金者に対し,二重払いをしなければならなくなります。このようなトラブルを避けるために,あらかじめ取引に使う印章を登録させているのです。
認印とは,上記以外の印章を指します。「三文判」とも呼ばれるように,重要な取引以外でも用いられます。だからといって,実印でなければ効力がないかと言えばそうではありません。認印であっても印章であることには違いがないので,すでに述べた効果(民事訴訟法228条)が生じます。やはり,ハンコをポンポン押すのは褒められたものではありません。
なお,世の中には,印章が必要という場合にスタンプ印(いわゆるシャチハタ印)を持ってくる人がいますが,これは困ります。すなわち,シャチハタ印は朱肉を使っていないので,長い間に変色する恐れがあります。また,このような印章はどこでも売っていますので,本当に本人の印章なのかどうかが判断できません。弁護士との委任契約及び委任状の押印の際にもシャチハタ印はお控えください。
・割印/契印/捨印
紛らわしい用語です。
まず,割印とは,複数の文書が同一のものであることを表すために押印されるものです。委任契約書は,契約当事者が1部ずつ保管する必要がありますので,割印をして内容の同一性を担保します。弁護士によって割印を行う先生と行わない先生がいますが,私は割印を行っています。
次に,契印とは,文書が2枚以上になる場合,それが一体の文書であり,また順番につづられていることを示すために押印されるものです。弁護士会照会の照会申出書では契印を行うことが義務付けられていますし,先生の中には内容証明郵便に契印を行う先生もいらっしゃいます。私は,現代では下のページ番号を見れば順番に閉じられていることが一目瞭然であること,ステープラーなどで綴じられていれば,一体の文書であることは明らかであることから,契印は行っておりません。なお,現在では,裁判の準備書面においても契印が不要であると解されています。
最後に,捨印とは,あらかじめ書類の欄外に押印しておくことで,後日,訂正が必要になった際に訂正印が不要になるというものです。訂正が必要になるとはいっても,当初に作成した書面と内容が異なるように変更することはできませんので,せいぜい誤字脱字の修正に使われます。捨印は何をされるかわからないと怖がる方もいらっしゃいますが,訂正部分は二重線で消してあるのでどのような修正を行ったのかもわかりますし,内容の変更を伴う場合は,捨印をしていたとしても修正が無効と判断されることもあるかと思います。それでも信用できないのであれば,捨印を押さないのも一つの方法かと思います。
内容が長くなりそうなので,本日はこの程度で。
投稿者:
アダジオ法律事務所
住所:神奈川県横須賀市富士見町2-72 森コーポ2階
電話番号:046-828-6960
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