専門分野とは何か~ジェネラリストとスペシャリスト考察~
2015.10.22更新
こんにちは。
弁護士の角井です。
最近,冒頭のあいさつもあっさりしてきたものです。
まぁ私は「こってり」より「あっさり」の方が好きなので,自分には合ってると思います。
(私はあの「こってり」がしゃぶしゃぶのごまだれにしか見えません。)
さて,本日のテーマは,「専門分野とは何か」です。
話は変わりますが,先週金曜日に以前お知らせしていた市民法律講座が行われました。
参加してくださったみなさま,どうもありがとうございました。
急ごしらえのレジュメと急ごしらえの話だったにも関わらず,最後までご清聴頂き,ただただ恐縮しております。
その席の最後,帰ろうかとしているときに,参加者の方にいろいろと質問をいただきました。
その際,「先生のご専門は何ですか?」と聞かれました。
来ました。私が最も答えづらい問題!(いや,他にも年齢やら経験やら聞かれたくないものはあります。)
思えば,一般の皆さんとお話をしているとき,必ずと言っていいほど聞かれるのが専門分野です。
しかし,今一度考えてみましょう。「果たして弁護士に専門分野はあるのか?」ということを。
ここで,一つヒントとなるのが,医療の世界との対比です。
医師の先生方は多くの専門分野に分かれています。そして,私たちはそれに応じて受診する科を決めます。
おなかが痛くなったら消化器科,関節が痛くなったら整形外科,頭が痛くなったらいきなり脳外科には行かず内科。
そして,各診療科の中でも数多くの専門領域に分かれています。
そうすると,きっと皆さんは思うはずです。「弁護士にも専門領域があるはずだ。」と。
ここで衝撃的なお知らせをします。
弁護士の業務広告において「専門分野」という表示をすることは控えるべきこととされています。
◆弁護士及び弁護士法人並びに外国特別会員の業務広告に関する指針
第3 規程第3条の規定により規制される広告
12 専門分野と得意分野の表示
⑴ 専門分野は,弁護士情報として国民が強くその情報提供を望んでいる事項である。一般に専門分野といえるためには,特定の分野を中心的に取り扱い,経験が豊富でかつ処理能力が優れていることが必要と解されるが,現状では,何を基準として専門分野と認めるのかその判定は困難である。専門性判断の客観性が何ら担保されないまま,その判断を個々の弁護士及び外国特別会員に委ねるとすれば,経験及び能力を有しないまま専門家を自称するというような弊害も生じるおそれがある。客観性が担保されないまま専門家,専門分野等の表示を許すことは,誤導のおそれがあり,国民の利益を害し,ひいては弁護士等に対する国民の信頼を損なうおそれがあるものであり,表示を控えるのが望ましい。専門家であることを意味するスペシャリスト,プロ,エキスパート等といった用語の使用についても,同様とする。
さてさて,これで二度と聞かれることはありませんね。めでたしめでたし。
そうはいかないでしょうね。なぜなら,「規程で専門分野の表示自粛を求めていること」と「弁護士が専門分野を持つべきかどうか」という話は全く別の話だからです。
続いて,専門分野に関する私自身の意見を披露します。
弁護士の世界において,確かに「専門的分野」というものは存在します。
例えば,知的財産権,医療過誤,渉外などは,通常の弁護士が対応できる問題ではありません。
それは,内容自体が非常に高度で複雑であることと,日常業務においてそのような事案を経験する機会がほとんどないためです。
このような分野については,上に挙げた分野を専門分野としている弁護士に依頼する必要があります。
しかし,裏を返せば,そのような専門的分野以外の案件については,弁護士でありさえすれば対応できるということになります。
もう一つ考えなければならないのは,弁護士自体の数と依頼事件の多様性です。
例えば,平成27年7月31日現在の弁護士の数は,全国で36,390人です。このうち,約半数が東京に在籍していると言われています。
専門分野のみを行う弁護士のことをスペシャリストというならば,その対応できる範囲は非常に狭いということになります。
クロイツフェルト・ヤコブ病の専門医が(たぶん)単純な風邪の診断ができないように,知的財産法のスペシャリスト弁護士は,(きっと)ご近所トラブルを処理できないはずです。
このようなスペシャリスト弁護士が仕事をしていくためには,各分野に特化した弁護士が多数存在している状況が必要になります。
そして,そんなことができるのは,今のところ東京だけです。
私が仕事をしている横須賀市は,弁護士の数が多いとは言えない地域です。
日頃相談をしている内容は,日々の生活の中から生まれてくるような身近な問題です。
それは様々な分野に及んでいますので,幅広い知識が必要になります。
そのため,私はスペシャリスト弁護士ではなく,ジェネラリスト(万能)弁護士を目指したいと考えています。
万能ねぎは,ラーメンに入れても鍋でもぬたでもみそ汁でも納豆の薬味でも何でもござれです。そんな感じです。
そういうわけなので,私には専門分野はありません。逆を言うとできない分野もほとんどありません。
弁護士に相談すべきかどうかわからなくても大丈夫です。「それは弁護士に相談する事案ではありません。」とお答えします。
今後とも万能ねぎ弁護士・角井をよろしくお願いします。
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