歌えるけど踊れない・読めるけど書けない・思ってても伝えられない

2015.07.07更新

 こんにちは。

 横須賀のアダジオ法律事務所の弁護士の角井です。

 

 今日届いた郵便物の中に,不思議な宛名の郵便を発見しました。

 「スタジオ法律事務所 様」

 ・・・・・あーあー,なっるほどねぇ。言われてみれば似てないこともないかもねぇ。

 これからもジブリ法律事務所をよろしくお願いします。

 

 さて,突然ですが,私は高校生の頃から合唱を嗜んでいます。

 音楽の先生から熱烈な勧誘活動を受け,入部したら音楽の成績がつねに「5」になるという都市伝説を信じ,若かりし私は音楽部への入部を決意したのでした。

 入ってみると,それはそれは過酷な練習の日々が待っており,「これは完全に失敗だったな。」と思ったものです。

 しかし,定期演奏会を経験した後は,その昂揚感の虜になり,現在に至るまでOBとして出演を続けています。

 

 合唱をする上で避けて通れないことがあります。それは,著作権との関係です。

 部活動の一環だから別にコピーでもいいのではないかと思ったあなた。残念ながら,そうではないのです。

 その証拠に,著作物には(c)の文字がついているでしょう。

 この(c)マークですが,具体的にはどんな意味があるのでしょう。何だか真面目なブログになりそうな予感がします!

 

 

・(c)の意味とその沿革

 

 (c)(正確には丸にc。)は,著作権を表示するマークであり,このマークが書かれているものは,著作物として法的な保護の対象になっていることを示しています。それでは,なぜこのような表示が必要とされるのでしょうか。これを読み解くには,著作物における方式主義と無方式主義という二つの考え方を知る必要があります。

 

 まず,無方式主義とは,登録や著作物の官公庁への提出などの手続をとることなく,著作物が成立した段階で自動的に保護を与えるという考え方です。方式主義は,この逆の考え方であり,著作物が成立しただけではなく,登録や提出などの手続をとった著作権者のみ保護の対象とするという考え方です。

 

 著作権を保護しようとする考え方は,1886年に成立したベルヌ条約まで遡ります。この条約の正式名称は,「文学的および美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」ですが,いわゆるベルヌ条約事件(最判平成23年12月8日民集65巻9号3275頁)はテレビ各局でも報道されましたので,ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

 

 このベルヌ条約は,当時ヨーロッパ諸国で主流だった無方式主義を採用したため,権利主張のための記載だけでなく著作権表示すら不要とするものでした。これに反発した方式主義の国々(アメリカや中南米諸国)はベルヌ条約に加入せず,独自の表示を定めました。そのため,ベルヌ条約加盟国の著作物は,いちいち複雑な手続を経なければなりませんでした。なお,日本は不平等条約を撤廃するために先進国の仲間入りをする必要に迫られており,1899年に同条約に加入しています。

 

 これでは困ると考えたヨーロッパ諸国は,1952年,ベルヌ条約よりも著作権保護の程度を薄めた万国著作権条約を起案し,(c)マーク表示+著作権者名+最初の発行年を一体的表示としていれば,アメリカなどの方式主義の国でも保護が受けられるとしました。これが,(c)マークの始まりです。

 

 

・その後の情勢と現代における意味

 

 こうして生まれたマルシーマークは,ベルヌ条約加盟国である日本において普及することになります。本を書いたら(c),曲を出したら(c)。特に,アメリカにおいて著作権の保護を受けられるかどうかは死活問題だったでしょうから,せっせと(c)マークを付けるようになります。

 

 しかし,このような状況に変化が生じます。アメリカがそれまで採用していた方式主義を放棄し,無方式主義であるベルヌ条約に加盟したのです。これに伴い,中南米諸国も次々とベルヌ条約に加盟するようになります。こうして,(c)マークは急激にその意味を失っていくことになりました。ときに,1989年のことです。

 

 では,現代では,(c)マークはどんな意味を持っているのでしょうか。はっきり言ってしまうと,「あんまり意味がない」という状況です。(c)マークを付けなくても著作権の保護の対象になるのですから,意味があるとすれば,権利者であることの推定が働くといった点や,権利を行使しなかったと反論されないためのパフォーマンスといったところでしょうか。なお,現在でも万国著作権条約に加盟していてかつベルヌ条約に加盟していない国においては,(c)マークが依然として意味を成しますが,そのような国はごくごくわずかです。

 

 そうすると,ほとんどの(c)マークは,従来からの慣例に従って付けているということになります。

 

 ちなみに,(c)は,Copyrightのことですが,Copr.と略しても構いません。そうすると,Copr.2015 Shunsuke TSUNOIでも(c)2015 Shunsuke TSUNOIでもいいのですが,Copyright(c)2015 Shunsuke TSUNOIはダブっています。「頭痛が痛い」や「お体ご自愛ください」と同じですね。

 

 

・おわりに

 

 合唱からこんなに話が広がるなんて驚きです。

 法律って意識しないと気付かないのですが,結構身近にあるものなんですよね。

 また,身近なことから何か思いついたら投稿します。

投稿者: アダジオ法律事務所

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