交通事故における後遺障害等級

query_builder 2015/06/26

 こんにちは。

 横須賀のアダジオ法律事務所の弁護士の角井です。

 

 最近交通事故の相談を立て続けに受けましたので,特に後遺障害等級に関するお話をしようと思います。

 

 

・交通事故案件の進め方~自動車保険の来歴~

 

 最近,大手自動車保険会社のCMをよく見るのですが,そこでは自動車保険の始まりが描かれています。大正時代の裕福な家庭に自動車なる物がやってきます。馬の力を借りずに恐ろしく早く移動するその乗り物について,ご令嬢はお父上の心配をするようになります。夜中の間に作ったお守りをお父上に渡すと,お父上は「お守りだね。」と答えます。非常にすがすがしいCMで,私はとても気に入っています。

 

 このように,自動車保険が誕生したのは大正3年のことです。当時,全国の自動車保有台数は1000台程度と言われていますので,まったくお金にならない事業だったと思いますが.いまでは超が付くほどの大企業に成長しています。

 

 ときに昭和40年代から50年代にかけては,「第一次交通戦争」と呼ばれるほどの交通事故死亡者を出すようになり,裁判所での交通事故訴訟も急増しました。当時は,いわゆる示談屋さんや事件屋さんが横行していましたので,契約者から保険会社が代わりに交渉してほしいという声が高まるようになります。そうして,昭和49年に発売されたのが示談代行付保険です。

 

 保険会社が示談代行をすることは,弁護士法72条との関係で問題があるのですが,保険会社も保険金を支払うという意味で当事者性を有するという解釈が成り立つようになり,現在ではどの保険会社も示談の代行をしています。交通事故案件=保険会社の担当者との交渉という歴史はここから始まっています。

 

 

・保険会社担当者との交渉

 

 こうして自動車事故が起きると,被害者はもっぱら相手方保険会社の担当者と交渉することになります。その際,現在の保険では,「一括払い」という制度を採用していますので,自賠責保険と任意保険をまとめた上で,任意保険会社がすべて対応してくれます。法律上は,治療費や交通費などを被害者が負担し,後日加害者に対して請求するという方法が原則なのですが,交通事故の場合は,被害者保護の観点から,治療費を相手方保険会社が直接払ってくれます。

 

 治療が順調に進むと,治癒または「症状固定」という時期が訪れます。これは,怪我に対して治療を行ったとしても,これ以上症状が良くならない状態に達した時のことです。そうすると,交通事故によって生じた怪我の治療は終わるわけですから,治療費の支払も終わりますし,慰謝料や休業損害の清算が始まります。保険会社の担当者からは,示談書が届きますので,内容に納得すれば署名押印して送り返すだけです。

 

 その後,治療費以外の賠償金が振り込まれて事件の処理はすべて終わります。これが最も問題なく交渉が進んだ場合のモデルケースです。

 

 しかし,実際にはうまくいきません。もめるポイントとしては,次のような点が挙げられます。

 

 ①まだ痛みが残っているのに治療費の支払いを終わらせようとする

 とてもよく見られるケースです。保険会社には内部基準がありますので,最初に書かれた診断書の病名などから形式的に治療期間を設定します。一般的には,頸椎捻挫(むち打ち症)の場合,事故から約6か月で治療費の支払いが打ち切られることになります。

 

 ②過失割合について認識の違いがある

 これもよくあるケースです。信号機の色,お互いの車のスピード,方向指示器の使用の有無などによって過失割合は大きく変わります。

 

 ③思っていたより賠償金が少ない

 よく知られていますが,慰謝料は目に見える損害ではないことから,その金額の算定にあたって様々な基準があります。自賠責保険会社が使う自賠責基準<任意保険会社が使う任意保険基準<裁判所が使う裁判基準の順に金額が高いと言われています。保険会社の担当者が使う基準は任意保険基準ですので,弁護士が使っている裁判基準とは金額が異なります。

 

 ④担当者の態度がどうにも気に食わない

 意外に多い意見が担当者の態度に関するものです。私も多くの担当者と話をしてきましたが,人当たりのいい人とそうでもない人がいるなぁと思います。ただ,総じて言えるのは,お店で働いている店員さんほど丁寧ではないかなという印象を受けます。お店ではないので当然なのですが,交通事故被害者の気持ちを思えばもう少し丁寧でもよいのかなと思います。

 

 

・後遺障害獲得の方法

 

 先ほども述べたように,後遺障害が残らない「治癒」であれば,それまでにかかった治療費や慰謝料,休業損害を清算して終わりです。しかし,後遺障害が残ってしまったときは,別途後遺障害が残ったことに対する慰謝料が発生し,また作業能力が下がったことに対する逸失利益の問題も生じます。

 

 ここで,交通事故における後遺障害は,自賠法施行令別表に定める後遺障害等級に応じて賠償がなされることになっています。そして,この後遺障害等級は,労働者災害補償保険における基準(労災認定基準)に準じて行うものとされています(自賠責保険支払基準)。等級は,介護を伴う後遺障害が自賠責施行令別表第一第1級及び第2級の2段階,その他の後遺障害が同別表第二第1級から第14級までの14段階に分かれています。

 

 様々な行為障害等級がある中で,よく問題とされるのが,むち打ち症に伴うものです。むち打ちは,衝突の衝撃などによって,末梢神経が損傷することによって生じるものであり,頸や肩の痛みが主な症状ですが,めまいや吐き気を訴える人もいます。

 

 このようなむち打ちは,診断書上では,「頸椎捻挫」「頸部挫傷」「外傷性頸部症候群」などと表記され,概ね1年以内に自然治癒すると考えられています。しかし,椎間板の一部が頸椎の間の部分で脊髄神経の出口をふさぐことによって,麻痺などが生じることもあり,この場合には「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害14級に該当する場合もあります。

 

 後遺障害該当性の判断は,他覚的所見があるかによってなされます。つまり,客観的な資料がない場合であれば,本人が詐病として痛みを訴えている可能性を否定できないので,後遺障害の認定ができないのです。そのため、後遺障害が残るむち打ち症かどうかは,次の点を考慮して判断されることになります。

 

 ①追突衝突自体の衝撃の程度,態様,被害者の姿勢及びそれが身体に及ぼした程度

 ②症状発現の経過とその変遷,当初の医師の診断お及び治療経過等

 ③X線やMRIなどの画像,間接可動域測定,筋力測定,筋反射・病的反射テスト,知覚検査,神経学的検査の結果

 

 このうち,画像診断などは動かしようがありませんが,診断書への記載はいかようにも工夫できます。医師の中には,後遺障害認定をあまり意識せずに診断書を作成する方がいます。医師の責務は治療を行うことですので,そのこと自体は何ら問題がないのですが,被害者の立場からすれば,できるだけ詳細に症状や経過を記載してもらうよう促すべきでしょう。

 

 

・おわりに

 

 交通事故は,自動車社会に生きる者として避けては通れないものとなっています。

 私自身も車を運転しますが,ヒヤッとさせられることはしょっちゅうあります。

 私たちの仕事はすべてそうですが,弁護士が登場するような争いは本来ない方が良いのです。

 しかし,起きてしまったときは,腹をくくって問題に立ち向かわなければなりません。

 そんな時にお声掛けいただければ,様々な不便を弁護士が解決できます。

 おひとりで悩まずにご相談ください。

 

投稿者: アダジオ法律事務所

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