公選法改正と学校現場における「政治的発言」

query_builder 2015/06/18

 こんにちは。

 横須賀のアダジオ法律事務所の弁護士の角井です。

 

 今週は,比較的事務所にいることが多いので,ブログの更新頻度も上がっております。

 昨日は,様々な法律の改正案が可決されたようですが,その中でも気になったのは,公職選挙法の改正です。

 選挙権が18歳以上に引き下げられるというので,ニュースでもかなり話題になっていましたね。

 

 

・改正公選法の狙い

 

 選挙権の拡大は,実に70年ぶりの出来事です。前回の改正は,日本国憲法が制定される前の昭和20年のことであり,20歳以上の男女に等しく選挙権が与えられました。その後実施された選挙によって,初めて民主的な議会が成立し,そこで議論された結果制定されたのが現行憲法ということになります。

 

 このときの選挙権拡大によっていわゆる普通選挙が実現したわけですので,それまでの選挙権拡大運動は一つの終結点を迎えたことになります。今回は,普通選挙の趣旨をさらに推し進める意味合いもあり,選挙権が与えられる年齢が18歳以上に引き下げられたものだと考えられています。 しかし,なぜこのタイミングなのかといえば,正直よくわからないところがあります。

 

 

・憲法改正手続法との関係

 

 それを紐解く一つ目のカギは,憲法改正との関係にあると思われます。

 

 日本国憲法には,当然のことながら改正に関する規定が存在します(憲法96条)。そこには,「各議院の総議員の三分の二以上の賛成で,国会が,これを発議し,国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には,特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において,その過半数の賛成を必要とする。」と定められています。

 

 このように,憲法改正には国民投票が必要なのですが,具体的な方法についてはこれを定める法律がなく,60年にわたって国民投票の手続が未定のままになっていました。なお,実際には,昭和28年に自治庁(現在の総務省)が「日本国憲法改正国民投票法案」を作成し,国会に提出しています。しかし,閣議決定に至らなかったことから,国会に上程されず,廃案となっています。

 

 そこで,満を持して法律を作ろうとしたのが現在の総理大臣である安倍晋三氏であり,同氏の第一次内閣の際に,「日本国憲法の改正手続きに関する法律」が制定されています(平成19年5月18日法律第51号)。 そして,同法においては,国民投票の選挙権について,18歳以上の国民に与えると規定されています(同22条柱書)。このことから,憲法改正に伴う国民投票と平仄を合わせるために,公選法の選挙権年齢を引き下げたものと考えられます。

 

 

・保守と革新のはざまで

 

 二つ目のカギは,若年者における政治傾向です。

 

 一般論として言えば,若い人たちは多くの経験を有していないことから,政治判断にあたって革新に傾き,逆に年配者は築き上げた生活や地位を守るために,保守に傾く傾向にあると考えられます。例えば,先の大阪都構想に関する住民投票では,若年者ほど賛成票が多く,年配者になるほど反対票が多かったことが報じられています。

 

 日本の政治とは,とかく不思議なもので,「保守」を標榜する自民党が憲法改正という革新的な政策を提言し,「革新」を標榜する社会党が護憲という保守的な政策を主張していました。このような保守のねじれ現象は,55年体制に基づくものですが,社会党が勢力を極端に失った現在においても,概ね同じような行動となっています。

 

 18歳以上の国民に選挙権が与えられることにより,革新的な内容に支持が集まりやすい傾向が見られるようになると考えられます。実際には,人口比率的に年配者の方がマジョリティであることを否定しがたいですが,大阪都構想における住民投票の結果が極めて僅差だったように,賛成か反対かという二択法では,結論を左右するような大きなインパクトを与える可能性が十分にあります。

 

 

・現場の声は

 

 こうして.選挙権は拡大されたわけですが,実際に選挙権を享受するようになる18歳や19歳はどのように感じているのでしょうか。報道によれば,あまり歓迎はしていないようです。

 

 それもそのはずであって,今回の選挙権拡大は,当事者が望んで行われたものではありません。若い世代にしてみれば,大人が自分たちを,選挙というよくわからない制度に勝手に引き込んでいると感じるでしょうし,そう考えるのも当然でしょう。

 

 その一方で,彼らが不安に感じていることがあるとすれば、日常生活において政治問題を議論する場がなく,選挙を未知のものとして認識しているからではないでしょうか。

 

 今回の改正で教育現場はてんやわんやだという報道がありました。何やら「主権者教育」というものを授業の中でしていかなければならないらしいのです。それもこれも,従来,教育現場において政治の話をすることが極端にタブー視されていた現実があり,このことが原因であるように感じています。

 

 私自身,公立畑をずっと歩んできましたので,「政治的宗教的に中立であれ」という空気はひしひしと感じていました。まあ,中には特有の政治思想がしみ込んでいる先生もいたような気がしますが,何か危ないにおいがするのでこのくらいでやめておきます。

 

 特に歴史の授業において,第二次世界大戦後の現代史は,そもそもカリキュラムに存在しないという仕様でしたが,それもある特定の政治的発言を避ける意味合いがあったのかもしれません。ちなみに,高校主催の夏期講習において,現代史を補完的に教えてくれる機会がありましたが,部活の引退演奏会直前でしたので,泣く泣く出席を断念しました。私の青い思い出です。

 

 これからは,授業内において,もっと積極的に選挙制度について取り上げてほしいと思います。その際,ある程度政党ごとのマニフェスト研究やこれまでの実績にも触れた上で,活発なディスカッションを期待したいところです。そんなことはあり得ないと思いますが,政府が政権与党に有利な内容の授業をするように指示するなどは言語道断です。あり得ないと思いますが。

 

 このように,選挙制度に対する理解が高まっていけば,18歳以上の国民から今回の法改正に対する不安の声はなくなっていくでしょうし,投票率の向上にもつながっていくのではないでしょうか。

 

 民主主義制度が未発達なこの国において,今回の法改正をきっかけとして成熟した社会が実現することを心から願っています。

投稿者: アダジオ法律事務所

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