過払金ビジネスの終着点
2015.06.16更新
こんにちは。
横須賀のアダジオ法律事務所の弁護士の角井です。
前回の記事で少し毒づいてしまったのか,もう一つだけ書いておこうと思います。
それは,昨今テレビCMなどで多く耳にする「過払金」に関するものです。
・過払金とは何か
貸金の利息について,利息制限法1条1項は,元本が10万円未満の場合は年20%,10万円以上100万円未満の場合は年18%,100万円以上の場合は年15%を上限と定め,この制限を超えた利息の支払いは「無効」であるとしています。
無効ということは,本来支払わなくていいいお金というわけですから,払いすぎた分の利息が順次元本に充当されることになり,いつかは完済します。しかし,それに気付かないで払い続けると,今後は業者の方が理由がないのにお金を受け取っていることになりますから,完済した後の支払い分を返還してくださいという話になるわけです。この支払いすぎたお金を「過払金」,それを返してもらうことを「過払金返還請求」と呼んでいます。
・「過払金には返還期限があります」
CMでよく聞くセリフです。返還期限とはわかりやすく言い換えた言葉であり,正確には「消滅時効」のことを指しています。お金を払いすぎているとは言っても,長い間返還請求をしないと業者の方も返さなくてはいいのかもしれないと思い始めます。その後何十年もたってから返してくれと言ったとしても,業者はすでにそのお金を別のことに使ってしまったかもしれませんし,何だか不意打ちのような感じもします。
そこで規定されているのが消滅時効という制度であり,過払金の場合は,最後に取引をした日から10年が経つと,返還請求をすることができなくなってしまいます(民法167条1項)。
この規定を勘違いしている人がとても多く,私も何回も質問を受けたことがあります。そこで,はっきりお答えしましょう。
この規定が関係する人は,「平成17年6月頃にすべての借金を返済した人で,その後まったく新たな借り入れをしていない人」のことです(平成27年6月16日現在)。
逆をいえば,平成17年7月以降に借り入れをしていた人や,いまも借金の返済を続けている人は,直ちに消滅時効が問題となることはあまりありません。細かい話をいえば,消滅時効が関係することもあるのですが,例えば,今から30年以上前に消費者金融から借入れを行い,その後,現在まで借金を返し続けている人は,過払金の返還請求をできる可能性が非常に高いと言えます。
CMで消滅時効の注意喚起をすることはよいのですが,フレーズだけが独り歩きしてしまっている点は困ったものです。
・「弁護士は限度額に制限なくお役に立てます」
これもどこかで聞いたことのある言葉です。じゃあ,限度額の制限がある人たちとはいったい誰なのか。
それは,「司法書士」のことです。
司法書士の中でも法務大臣の認定を受けた司法書士は,簡易裁判所の管轄内で訴訟代理権を持っています。このことを簡単に言うと,簡易裁判所の事物管轄である「140万円以下」の事件しか,業務として扱うことができないということです。
では,過払金を計算した結果,140万円を超えてしまうとどうなるのか。それは,依頼者ご自身で裁判をするか,新たに弁護士に依頼するかという選択肢に迫られることになります。また,140万円以下の事件であっても,簡易裁判所の判決が控訴されてしまうと,司法書士には訴訟代理権がなくなるので同じ問題になります。
このような問題点がありますので,個人的には,司法書士の先生方が過払金返還請求事件を扱うことに対してかなり否定的な立場をとっています。きっとCMの事務所さんも同じことをいいたいのでしょう。
・危険な大量宣伝事務所
さんざんダシに使っておいてなんですが,以上のようなCMを流す事務所にはある特徴が見られます。それは,CMで集客することにより,大量の案件を処理しなければならなくなり,個々の案件処理がおろそかになるということです。
むろん,CMを流している事務所さんの全てがそうだと言っているわけではありませんし,大量に処理することで過払案件のノウハウは蓄積されていることと思います。そのため,いい事務所かどうかは,相談者の皆さん自身で判断しなければなりません。
以下に危険な事務所の見分けかたを列挙しておきましたので,参考にしてみてください。
□依頼するまでに,弁護士・司法書士と一度も直接面談していない(電話,FAX,メールのみ)
□委任契約書を作っていない
□取引履歴・引直し計算書のコピーが欲しいと頼んでも渡してくれない
□現在の状況を尋ねても2週間以上連絡がない
□業者との和解書のコピーを渡してくれない
□担当弁護士・司法書士がコロコロ変わる
□事件終結時に,報酬等の明細書を出してくれない
他にもいろいろあるかと思いますが,上に記載した項目はかなり危ないレベルです。このような事件処理をしてしまっている事務所の中には,依頼者と事務所との紛争が消費生活センターに持ち込まれているものもあると聞いています。
もしも上記のような事務所に依頼してしまった場合は,弁護士の場合は所属弁護士会に,司法書士の場合は所属司法書士会や地方法務局へ苦情相談をすることをお勧めします。
なお,当事務所は,丁寧な事件処理を心がけておりますので,セカンドオピニオン相談を受け付けております。
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